ヒッキーボイス
この度、日本財団助成事業「2015年度ひきこもり当事者の社会参加を支える枠組みづくり」の一環として、キャラバンやIORI、ネットアンケートで集まった声を基に作成してきました冊子「ヒッキーボイス」が完成しました。
ひきこもり経験者、家族(親・兄弟姉妹)、支援者の声から、それぞれ望む支援・良かった支援、やってみたい支援、良くなかった支援をまとめています。
★冊子「ヒッキーボイス」の目的
『ひきこもり支援に携わる方達に、ひきこもり経験者やその家族が本当に望む支援を知ってもらいたい』という想いから、本冊子は生まれました。
ひきこもりに至る経緯は十人十色。その人一人一人にあった“オーダーメイドの支援”が必要だと言われています。だからこそ、支援するにあたり、何を指針にしたらいいのかと、迷うことも多いはずです。 支援の指針として、また行政の政策へ、ひきこもり経験者やその家族たちが寄せてくれた声を、ぜひ活かして頂きたいと思っています。
また、今ひきこもっている方やその家族へは、同じ想いを持つ人たちの声から、ご自身の未来につながるヒントを掴んでもらえたら幸いです。
★声の集め方
特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族連合会(以下「KHJ」という)では、3つの方法でひきこもり経験者や、その家族および支援者から、「支援」についての意見を集めました。3つの方法とは、対面・紙面アンケート・Webアンケートです。全国から約530名の方の声が集まりました。
対面:ひきこもりに関心がある人達の対話の場『ひきこもりフューチャーセッションIORI(以下「IORI」と いう)』に、2015年6・8・10・12月の計4回参加し、経験者や元経験者から話を聞きました。 【のべ人数約90名】
紙面アンケート:平成27年度日本財団助成事業『ひきこもり当事者の社会参加を支える枠組み作り「ひきこもり大学」KHJ全国キャラバン及び「当事者交流会」』の参加者にアンケートを記入してもらいました。 【自由記述式:回答者数387名】
Webアンケート:2016年1月にKHJとIORIのホームページにてWebアンケートを掲載し回答してもら いました。場に来られない当事者や家族の声を集めることを目的としています。 【自由記述式:回答者数51名】
平成27年度 公益財団法人 日本財団助成事業
Hikky Voice
ヒッキーボイス ~ひきこもり当事者達が望む支援のかたち~
★新たな支援のかたち
池上正樹 ジャーナリスト:‘97年からひきこもり当事者を取材
支援のあり方が変わりつつあると感じている。支援「する側」と「される側」の関係性が大きく変わってきている印象がある。
当事者側から、支援という言葉そのものへの反発や違和感が発信されてきている。支援には「他人が他人の人生設計を押しつける」イメージがあるという。支援側も支援という言葉を使いたくないと言う。
ここで大切なのは、誰のための、何のための支援なのか?ということである。支援活動は、当事者のためになっているのだろうか?そして、その行きつく先には何があるのだろうか?ということまで、想像をめぐらせていく必要が出てきたのではないだろうか。
震災以降に起きた大きな変化もある。ソーシャルメディアで当事者達が自由に発信できるようになり、ネット上でつながりが生まれ、自分達が本当に作りたいコミュニティづくりや活動が始まっていることだ。さらに、そのような情報を見た人達が、新しく“選べるかたち”で、行ってみたい場所へ行き、社会とつながるきっかけが生まれてきている。
もちろん今も、地域に埋もれた姿の見えない人達へ、どう情報を届けていくか、どうすれば伝わるのか、が課題であることは変わりない。特に、ネットを使えない人達への届け方を、みんなで一緒に考えていかなければいけない。
まだ誰ともつながっていない人達が、元気になった当事者達の姿を見て、いつかあそこへ行ってみたいなと勇気づけられ、希望につながっていくのではないだろうか。
当事者達を望む未来へとつなげる媒体の1つとして、ヒッキーボイスが有効なツールになればと願う。
※「当事者」とは、ひきこもり経験者を指します。
★ひきこもり経験者の声
当事者が、多様な選択ができる社会づくりこそが、一番のひきこもり支援だと思う
☆望む支援・良かった支援
1.支援の考え方・ありかた
・多様性を認めていける社会へ(本人の生き方を尊重できる社会へ)
・他人と形式的な比較をすることなく、その人の価値を認められるような社会が必要
・本人が望む 意思、タイミングを大切にしてほしい
・信じて待って、動きだしたら適切にサポートして欲しい
・困りごと、したいことに焦点を当てて欲しい。人の問題を勝手に決めつけないこと。ひきこもり・障碍が主人公ではない
・支援ではなく、理解をし合うという視点で対応して欲しい。一緒に悩んでくれる人が欲しい
2.“ひきこもり”の捉え方
・空白期間を否定しないでほしい
・若者という言葉 使わないで!
・年齢、期間は関係ない
3.つながり(人・社会)
・当事者がアクセスしやすいような支援
・再チャレンジ出来るようにして欲しい
・社会(家族以外の人)と持続的な関係を築ける支援
4.働くこと
・当事者の出来る事で、収入につながる具体的な支援(ぜひやりたい)
・当事者同士が協働でできる場をさらに充実させたい(靴磨きなど)
・人の役には立ちたい!
・何度もでもやり直しがきく、休んでもまた始められる場所
・就労だけではなく、ひきこもり当事者がやりたい事にチャレンジできるプラットフォーム(偏見なく経験を積める場)
・多様な働き方を考えて欲しい、認めてほしい
・働きたくても働けない葛藤について、一緒に考える
5.相談(カウンセリング)
・出来れば、マンツーマンで話を聞いて欲しい。みんなの前だと話しづらいです
・「次はいつ来るの?」という約束があると辛い
・時間をかけて話を聞いてもらえた。自分の悩みに共感を示してもらえたことが何よりも嬉しかった
6.社会制度など
・困窮者への支援。例:電車賃の支援や、安いカウンセリング(1回200円など)
・行政(保健所)で居場所や心の相談をする体制を作ってほしい。行政だと安心感がある
・居場所や家族会に対しての継続的な補助金や助成金(カンパでの会場・運営費負担は大変)
7.自助グループ
・自分の目標を語り合え、その経過報告をするような自助グループがあったらいいなと思います
・人目を気にせず、安心安全に言える環境を大切にしてほしい
・仲間や親友が出来るなど、仲間づくりをしたい
8.行ってみたい“居場所”
・基本的にひきこもっている人を「どうにかしてやろう」などとは思っていない人々が運営している ところ(「現状否定圧力」をかけないところ)
・ひきこもりはいまどき珍しくもない現象で、訪れる人たちも「ふつうの人たち」である、という考え と扱いが常識化しているところ
・外出が出来ない場合は、パソコンのカメラ等で見られるように中継するなど、自分と同じ人がこれだけいるんだということを共有させてほしい
・行きたいときだけ行ける、やれるときだけやれる場
・ひきこもりの女性限定の集まりがあるといいなと思います
9.わたしのこと
・ありのままの自分を見て認めてほしい(悪いことをしていないので)
・「こうして欲しい」がなかなか言えない
・人と繋がりたい
10.学び
・過剰に適応せずとも社会で生活出来る練習
・親の勉強会(父親・母親それぞれの講座)
・精神科のデイケアで人間関係を学べました
11.その他
・民間含めた支援サービスの情報が得られるポータ ルサイト的な場
・地方の支援を充実させてほしい(近所に支援する施設がない)
・自分だけでは動けなくて、でもやりたいと思った事を手助けしてもらえた(人が居る場所へ一緒に入る手助けなど)
・精神的に辛い時に声をかけてもらって助けてもらった(その結果、外に連れ出してもらえた)
・買い出しがきつい時のお手伝い
・楽しいことをしたい。お金のあまりかからないことで。カラオケとか、料理とか
・一緒にバカさわぎが出来る人が欲しい
・体力づくりを一緒にやってくれる人
・ひきこもりは、暗いときのほうがでかけられるから、支援機関も当事者会も、夜5時以降のものがあればいい
☆やってみたい支援
1.居場所・自助会をつくりたい
・一緒に遊ぶ(室外、室内問わず)
・完全なひきこもり状態のみならず、仕事を多少するようになっても人とのつながりが得られない人も支援し合える状態に出来たらいいと思う
・いつ来てもいい、来なくてもいい、「この時間、この場所」出入り自由な場のような居場所を作りたいですね
2.当事者主体
・当事者の”やりたい”をサポートする
・ネットなどで情報提供がしたい
3.働くこと
・収入を得る方法を教えたい
・資格取得の支援
4.相談(カウンセリング・ピアサポート)
・当事者の話しを聞く、訪問支援など、当事者に対してサポート活動がしたい(ピアサポート)
・引きこもり経験のある人が、現在引きこもっている人に、チャットで悩みを聞いてあげたりする。声でのコミュニケーションはハードルが高い
・1日1回メッセージを送って気にかけていると伝える
・ひきこもりの親に対する話し相手や、具体策の話
5.その他
・親子の支援
・旧来の学校の枠組みを超えた、あらゆる人の自由な学び合いの場づくり(具体的にはイエナプランやネット上の学校などのオルタナティブスクールづくりなど)
・自分の能力、経験(塾・予備校教師)を活かして、受験や就職試験等の勉強のサポートをしたい
・LGBTのひきこもり問題の解明
◎当事者の想いを理解し、その想いに寄り添う支援を!
元当事者として、何ができるか模索中です!
どんな形でも、協力出来たら嬉しいかな
さっさと支援から足を洗いたい…
☆良くなかった支援
1.支援者の対応が不適切
・自分の心の準備と支援のタイミングのミスマッチ
・ひきこもりにも少なからず、自尊心があり、それをへし折るような行為
・親族の前で叱責する、当事者に聞こえるように悪口を言う等
・上から目線的なことはいかがなものか。人間としての尊厳がある
・無理に外に引っ張りだそうとする
・自分が今まで受けた支援は、人にゴールを設定され、押しつけられるような支援だった。自分の自我が目覚めるまで根気よく待ってくれることはなかった。時間を設定され、その時間内で結果を出すことを求められた
2.就労
・公的支援は一本道なところ(就業へ…など)が嫌なところ(引き返せない)
・「ハローワークで自分で探して」という感じで、制度だけで、中身のない「支援」が多すぎる
・経歴に関係ない仕事を紹介された
3.その他
・支援を受けたことがない、地方で近くに支援がない 、そもそも支援がなかった等
・40代のひきこもりは支援の対象となっていない
・(支援側に)ひきこもり、ニートや対人恐怖症についての知識が皆無
・そのような場に行く勇気が無かった
★家族(親・兄弟姉妹)の声
当事者を社会に出すことが目標ではなく、当事者が自分の生き方を 見つけられることが目標だと思った
☆望む支援・良かった支援
1.家族会
・同じ悩みを抱えている人がいることがわかって、気持ちが落ち着いた
・家族会に毎月参加したことで、自分の考えやモノの見方、とらえ方が変わり、子どもとの接し方も変わり、子どもにも良い変化が出た。一人ではないという安心感が一番大きかったと思う
・ひきこもりになる方(当事者)は、一括りにはできない程、多種多様である。自分と近い感じの人ともっと深く話し合う場が週一くらいで欲しい
・家族会と行政とのつながりや行政からの支援(親の会として社協から支援金をもらっています)
2.居場所
・本人が居心地のいい場所を作ってほしい
・息子が気が向いたら気軽に参加できる場があればと思います
3.働くこと
・ボランティア、就業のきっかけ、就労前段階のトレーニングなど
・就労機会、受け入れてくれる職場を作ってほしい
4.その他
・100人100様です。個人個人の対応を相談でき る支援を望みたい
・家に来ていただいて、話しをして欲しい(話を聞いて欲しい)
・本人のもとへ来る美容師さんなど
・色々な情報をもらいたい、場を作ってもらいたい
・当事者が動けるような経済的な支援
・ひきこもりを認める認めないにかかわらず、支えがあれば良いと思います
・変わることのない支援を気長く続けてほしい
・自分を成長させる場がほしい。ひきこもりの親だけでなく、家族関係を学べる場があったらと思います
☆やってみたい支援
1.家族会
・家族会の運営助成(会場費、講師謝礼など)
・親の会での参加及び世話役
2.居場所
・居場所づくり自助会活動がしたい
・気軽に悩みを発信できるカフェなど
3.相談(カウンセリング・ピアサポート)
・相談相手。家族には話せなくても他人になら話せるのかなと思うので
4.その他
・一緒にスポーツをする、近くの山に出かける
・就労支援がしたい
☆良くなかった支援
・支援者や周りが無理解
・支援を受けたことがない
★支援者の声
本人の生きる力が本質的に高まるような、押しつけではない支援ができれば…
☆望む支援・良かった支援
1.居場所・家族会
・自助会のサポートや今後の展開について、様々なアイディアが得られる場所があると嬉しい
・そのままの自分を受け入れてもらえる居場所、役割、仲間。一般就職の前に必要なステップだと思う
・親の会。思いを共感する場が出来ました
2.相談(カウンセリング・ピアサポート)
・一緒に考えていっていただける人がいること
・ただただ何も考えず話せる相手作り
・友達のような(支援)
・継続的ピア(寄り添い)が効果的だと感じる
3.働くこと
・親戚や知り合いに仕事を紹介してもらうというのは、かなり有効だと思う
・自分のペースで働かせてもらえる環境だった(親戚の店だったから)
4.その他
・人とのつながりから、社会への道すじが得られた
・生活上の困りごとの解決をその道の専門家や特技者が手伝う「生活支援」!
☆やってみたい支援
1.支援の考え方・ありかた
・それぞれにあったオーダーメイドの支援(長いタームで)
・親と本人と三者で一緒に考えられる支援。当事者、家族の架け橋になれるような居場所づくり
・理解者を増やしていく。引きこもりがいけないことだと思わず、多様性を認めていける社会になるように一緒に考えていきたいです
2.居場所
・本人と本音でしゃべれる場、しゃべり場などをしてみたい
・居場所づくりをしたいと考えているが、資金が足りない
3.当事者主体
・当事者が当事者を支える仕組み ・自立=就労、という形式にとらわれない
4.その他
・多様な働き方や生き方に自分からOPENで、自分もそういう生き方を、今すぐしていくことから始まるな…と思いました
・いろんな出会いを提供したい。思いをいっぱい聞きたい
★生きることを支援する
NPO法人オレンジの会 理事 鈴木美登里
ひきこもりが社会の問題として表れてからおよそ20年が経過した。その後、国の施策や様々な支援団体、家族会が生まれた。その流れの中で社会参加しはじめたひきこもり本人が本文のような声を挙げ始めている。
彼らの声にもあるように、ひきこもっている時に今送っている自分の生活を肯定的に捉えている人は少ない。様々な不安な思いを抱え、繰り返し自問自答をしている。
「これから、どう生きていけばよいのか」 「自分に可能性や未来はあるのか」 「家族や周りの人は、自分をどう思っているのか」「生きていて、いいのだろうか」と。
もしくは、考えることをやめて一日一日が過ぎていった。
ひきこもりの問題の解決に正論は無いのではないか。一人一人のひきこもるに至る理由わけがある。その理由と同じくらいひきこもっていること自体がさらなる課題となりひきこもりの負のスパイラルが始まり、出口が見えなくなる。
彼ら彼女らが「変わりたい」「もう一度やり直したい」と思ったときから始まる時間がある。そう思うにいたる道程に関わり続ける支援の形がある。一人一人が時と場所を得て、変化し続けて、いつしかひきこもっていた時間は過去となる。その「時」と「場」を、共に待ち、共に作ること、様々な支援がある。
その支援をになうのは特定の誰かの役割ではなく、社会全体がになうことで解決の糸口が見えてくる。教育システム、労働環境、精神医療の問題、家族の関係性等など、ひきこもるに至る環境を見直していくことも支援の一つだと皆で考えたい。
★編集後記
ひきこもり等生きづらさを抱え、社会参加が困難な若者に対して、「社会の理解、支援体制など」一見環境が、整ってきて、生きやすい社会が実現しつつあると感じる現在。
しかし、当事者、特に若者からしてみると、家族や支援者の思いが先に立ってしまい、当事者本人である若者が、望む支援、環境整備とのズレ(ボタンの掛け違い)が生じてしまい、双方が本意ではなく、 課題を複雑・長期化させてしまったケースもまだまだあります。
平成27年4月からは、経済困窮だけでなく、社会的孤立無援による困窮者も含めた「生活困窮者自立支援法」が施行され、ひきこもり等生きづらさを抱えている若者などへの支援が、さらに進められています。
そのような社会情勢を踏まえ、各政策に、当事者の声が反映され、誰もが生きやすい「生きづらさが問題にならない社会」づくりの一助を、本冊子が担えることを切に望みます。
多くの方々から率直、かつ、多種多様な声を寄せていただいたことに大変感謝しております。ここに集まった「声」は、自分たちの思いを支援に反映してほしいという望みの表われなのではと考えます。そして、その思いを受けとめる場所や仕組みが求められていることを感じます。
紙面の都合上、本冊子に掲載できた声は一部にすぎません。当事者達の心のうちにある様々な想いに耳を傾け、共に歩む社会を目指していきたいと思います。
ヒッキ―ボイス編集部
大橋 上田 岩野 中田 岡田
平成28年3月 発行
問合せ先:特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会
〒170-0002 東京都豊島区巣鴨3-4-4 電話:03-5944-5250 FAX:03-5944-5290
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