地域包括支援センターにおける「8050」事例への対応に 関する調査報告書
地域包括支援センターにおける「8050」事例への対応に関する調査報告書
事業目的
社会的孤立事例(ひきこもり・無業者等)の高年齢化が指摘され、高齢の親と40代や50代の子どもが困窮した状態でようやく相談機関につながったり、親子共倒れ(孤立死)などの状況で発見されたりする例が相次いでいる。こうした事例が集まる機関のひとつが地域包括支援センターである。
支援者は親の介護等をきっかけとして、長期に渡って社会参加から遠ざかっている子どもの存在に気付くことができる。ひきこもりの課題解決を考える上でも、ひきこもる本人への介入よりむしろ親の介護をきっかけとした家族へのアプローチが可能になる面がある。
このように、地域包括支援センターは社会的孤立事例を発見しやすい立場にあるが、必ずしも子ども側の支援を専門としているわけではないという特徴がある。この2つの特徴は、どのように孤立事例を発見しているのか、そして他機関との連携によってどのように課題解決を図っているのかという研究上・実践上の関心の対象となる。現代の社会的孤立事例については、発見や介入および見守りをすべて単独の機関で行うことは現実的ではない。本事業では、高年齢化事例への支援と、縦割りを越えた多機関連携の2つの実態を知ることを目的に、地域包括支援センターを対象とした調査を実施した。
事業概要
事業では主として地域包括支援センターに関する質問紙調査を実施する。すでに過年度の社会福祉推進事業では、生活困窮者の自立相談支援窓口における高年齢化した社会的孤立(無業・ひきこもり)事例に関する調査を実施した。結果、高年齢の事例においては、相談の経路や支援における連携先として、高齢者の介護に関する窓口や機関の関りが多くなることが明らかになった。逆に、地域包括支援センター側が関与した事例においては、無職やひきこもり状態の子どもについて、どのような窓口や機関と連携しながら支援を実施しているのかを主要な問いとして設定した。
本人や両親が抱える課題としては過年度の調査と同様に困窮や精神疾患などについての問いを設定したが、さらに両親については認知症や要介護、本人と両方双方についてセルフ・ネグレクト的な状況(整頓・衛生の問題)、子ども本人から両親への虐待などについても質問に加えた。
調査研究の過程
地域包括支援センターに関する予備調査および訪問調査:地域包括支援センターは地域の高齢者の総合相談や介護予防などを担う一方で、高齢者と同居する子どもの支援を直接の目的としていない。そのため、無職やひきこもりの子どもとの同居事例に関する対応をどの程度経験しているかといった点について、特定の自治体の地域包括支援センターを対象に予備調査を実施した。また近年は、包括的な相談や支援の概念を、高齢者だけではなく幅広い対象に広げる動きも広がっており、無職やひきこもりの子どもとの同居事例に関しても、先進的な自治体の取り組みを把握することが有益と考えられた。特に、平成28年度厚生労働省委託事業「多機関の協働による包括的相談支援体制に関する調査・研究等事業」に注目し、相談支援の「包括化」に向けて包括化推進員を配置する地域包括支援センターの訪問調査を実施した。こうした予備調査や訪問調査の結果を反映し、質問紙調査の質問紙を作成した。
地域包括支援センターを対象とする質問調査における対象センターの抽出:全国約5,100か所の地域包括支援センターから6分の1にあたる窓口を抽出し、844か所に調査票を郵送した。全国のセンターに関するリストは人口規模別に並び替え、層化抽出を行った。
事業結果
地域包括支援センターを対象とする質問紙調査の結果
(1)高齢者と無職の子ども事例に関する結果の概要
調査対象として抽出した地域包括センターにおいて、3割強から回答があり、その8割を超える220か所のセンターで高齢者と無職の子どもとの同居事例に対応した経験があった。各センターから寄せられた220例のうち153例は狭義のひきこもり状態に該当するといえる。
(2)父母や本人が抱える課題
父母は要介護状態や認知症のほかに、経済的困窮、住環境の問題や孤立(交流の欠如)といった課題を抱える例が少なくない。本人が抱える課題としてひきこもり以外に経済的困窮、住環境の問題、支出の問題、父母への虐待などがある。
(3)地域包括支援センターによる支援の現状
地域包括支援センターによる支援の状況として、多くの例で家庭に訪問(父母への支援目的を含む)し、半数を超えて本人とも面談している。センターから他機関への相談は半数以上、合同での訪問も約半数で実施している。ただし、本人との面談が困難など支援の糸口をつかむことは簡単ではない。親子双方の生活課題への対応だけでなく、社会と関わるためのニーズをキャッチするという意味でも、家族全体への包括的なアセスメントや支援体制が必要であることが示唆された。
【問い合わせ先】
特定非営利活動法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会
〒170-0002 東京都豊島区巣鴨3-16-12-301
電話:03-5944-5250 FAX:03-5944-5290
info@khj-h.com
【本調査担当】
愛知教育大学准教授 川北稔
電話・FAX:0566-26-2727
〒448-8542愛知県刈谷市井ヶ谷町広沢1
kawakita@auecc.aichi-edu.ac.jp
報告書A4版 全74ページ
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