2018年度ひきこもりに関する全国実態アンケート調査報告 ~本人調査・家族調査・連携調査~
2018年度ひきこもりに関する全国実態アンケート調査報告~本人調査・家族調査・連携調査~
事業目的
ひきこもりの長期高年齢化が指摘され、各自治体で40 代以上の人を含む調査が実施されている。当会が平成29年度に実施した「潜在化する社会的孤立問題(長期化したひきこもり・ニート等)へのフォーマル・インフォーマル支援を通した『発見・介入・見守り』に関する調査・研究事業」では、生活困窮者自立相談支援窓口で対応したことのある本人の年齢層において40代を上げる窓口が最多(60.9%)だった。家族の年齢として、父の年齢は「死別」が半数近く(48.6%)、70 代が39.3%。母の年齢は70 代が32.1%、80 代が22.9%、「死別」が24.8%、「両親が死別」は14.7%だった。ひきこもりの長期高年齢化に伴い、介護問題、健康問題、経済的困窮など問題が複合化し、日常生活が追い詰められるまで問題が表面化せず、地域社会から孤立している実態が表出している。
平成30年3月1日開催の厚労省社会援護局関係主管課長会議において「ひきこもり対策推進事業の強化」が示された。そこでは、ひきこもり地域支援センターを中心に生活困窮者自立支援制度における自立相談窓口や保健所、就労支援機関、教育機関、家族会を始めとする民間機関等の地域資源、社会資源の連携を密にし、市町村における早期発見、早期対応に繋げるための関係機関のネットワークづくりや支援拠点づくり、すなわち「ひきこもり地域支援体制」の構築が項目に挙げられている。
しかし、長期高年齢化による問題の複合化は、支援の介入そのものを困難にさせ、支援に繋がっても継続が困難な現状がある。当会が全国の家族会を対象に平成29年度の実施した「ひきこもり実態に関するアンケート調査報告書」では、支援・医療機関を利用していない及び継続的に利用していない方の割合は7割に上っている。また、本人調査では、40歳未満の場合よりも、40 歳以上の方が、支援機関を利用していることが少なく、利用経験はあっても継続していないことが明らかになっている。
ひきこもり本人が動けない中、動き出すのは家族である。また、本人の生活面に接触できるのは、唯一家族であることも多い。しかし家族親自身が心労を抱えたまま孤立している現状も少なくない。まず、家族親が落ち着き、心のゆとりを回復させるための親支援(家族支援)が必要となる。家族会もこれを目指している。家族会だけでなく地域の様々な社会資源が共に家族を支えることで、本人支援に繋がり、ひきこもりの長期高年齢化に対応し、また早期対応によって長期高年齢化を予防することにも繋がる。
地域支援体制を促進することで、家族支援をより充実させてゆくことを本事業の主目的とし、本調査では家族会とひきこもり地域支援センタ―、自立相談支援窓口といった公的な相談機関との連携状況について調査を行った。
事業概要
KHJ全国ひきこもり家族会連合会の支部が平成30年11月~平成31年1月に開催した月例会において実施。ひきこもり経験者52名(以下、KHJ本人調査)、ひきもり経験者の家族304名(以下、KHJ家族調査)から回答が得られた。
ひきこもり地域支援センター75カ所、並びに生活困窮者自立相談支援窓口1318カ所を対象に平成30年12月に実施。602機関(回答率45.7%)から回答が得られた(以下、行政調査)。
本調査は、宮崎大学に委託し、地域連携調査委員会を設置して調査を行った。
ひきこもり状態の定義
本調査・研究事業では、社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交流)などを回避し、概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしてもよい)のことをひきこもり状態と定義した。
調査研究の過程
当初予定していた通りに調査を実施した。
(1)KHJ本人調査
①基礎情報 現在のひきこもり状態の有無、過去のひきこもり状態の有無、年齢、性別、現在住んでいる都道府県、ひきこもりの期間、現在のひきこもりの程度、1ヶ月の平均外出日数
②支援・医療機関について 支援・医療機関の利用経験の有無、支援・医療機関利用の中断
③社会参加や職業について 社会参加に関する困難感
④KHJ家族会について 家族会への所属、家族会への参加状況、家族会への参加回数
⑤家族会に求めていたことと得られたことについて
⑥家族会と行政の連携について 連携の必要性、どのような連携を求めているか(自由記述)、連携を求めている行政機関と連携の程度、行政と連携する上での障害(自由記述)
⑦ひきこもり長期化の理由について(自由記述)
⑧支援を求めようと思わない理由について(自由記述)
⑨悩みについて
⑩ここ6 カ月間の様子について
⑪ここ4 週間の生活について 学校について、仕事について、家事について、育児や介護について、親しい人との関係について、親しくない人との関係について、会話の有無、同居家族との不和について
⑫望む支援について(自由記述)
(2)KHJ家族調査
①基礎情報 ひきこもり状態、ひきこもりの初発年齢および期間、現在のひきこもりの程度、ひきこもり本人の1 ヵ月の平均外出日数、家族回答者が現在住んでいる都道府県、家族回答者の続柄、家族回答者の年齢、ひきこもり本人の性別、ひきこもり本人の年齢
②支援・医療機関について(家族回答者とひきこもり本人) 支援・医療機関の利用経験の有無、支援・医療機関利用の中断
③社会参加や職業について(ひきこもり本人) 社会参加に関する困難感
④KHJ家族会について(家族回答者) 家族会への所属、家族会への参加状況、家族会への参加回数、家族会に期待していたこと、家族会で実際に得られたこと
⑤家族会と行政の連携について 連携の必要性、どのような連携を求めているか(自由記述)、家族会と連携してほしい行政機関、家族会と連携ができていると思う行政機関、存在を認知している行政機関、行政と連携する上での障害(自由記述)
⑥ひきこもり長期化の理由について(自由記述)
⑦ひきこもり状況にある仮想上の人物への対応について 医療機関の受診の必要(ひきこもり状況にある仮想上の例)、ひきこもり状況にある仮想上の人物への対応
⑧家族会への入会時と現在について 家族会への参加期間、年代、仕事について、家事について、育児や介護について、親しい人との関係について、親しくない人との関係について、会話の有無、同居家族との不和について、学校について
⑨望む支援について(自由記述)
(3)行政調査
①基礎情報 ひきこもり相談対応の有無
②本人・家族からのひきこもりの相談の状況 平成29 年度中の相談件数、平成29 年度の来談者の転帰状況
③ひきこもりニーズの発見 訪問時の本人発見の有無、発見時の対応、ひきこもりを発見・介入する上で困難と思われる事項・理由(自由記述)
④ひきこもり家族会の設置状況 家族会設置の有無、家族会の回数、家族会の運営方法、委託の理由、自治体内で設置されている家族会の把握状況、家族会との連携状況、家族会と連携するメリットや家族会への要望(自由記述)、家族会設置予定、家族会設置の予定年数、家族会と連携する上での課題や家族会への要望(自由記述)
⑤ひきこもり相談対応・訪問における困難事項 対応実践での困難、困難事項について配慮している点や工夫している事項(自由記述)
⑥ひきこもり相談に応じる上でのニーズや困り事(自由記述)
(4)調査手続き
調査の趣旨に関する文書を読んだ上で,調査協力に同意された方のみが調査用紙に回答をした。調査の趣旨に関する文書は、調査用紙から切り離して持ち帰っていただくよう依頼した。
KHJ調査に関しては、調査用紙を月例会郵送で回答者に調査用紙と返信用封筒を配布し、郵送にて回収をした。また、行政調査に関しては、郵送にて調査用紙を配布し、郵送にて回収した。
事業結果
1.ひきこもり本人の年齢の推移
家族調査の結果から,ご本人の平均年齢は本年度35.2歳となり,昨年度からさらに1歳近い上昇が認められた。さらに,本人調査の結果から,本年度は昨年度に引き続き過去最高年齢を更新した。本実態調査からも高年齢化したひきこもりの実態が示されており,いわゆる「8050問題」という言葉に代表されるように,高年齢のひきこもりのニーズに合わせたサポートを充実させることが重要である。
2.家族の年齢の推移
家族の平均年齢は,昨年度から1歳以上の上昇が認められており,昨年度に続いてこれまでの調査で最高年齢を記録し,初めて65歳を超えた。今後,家族会にも参加が困難になり介護が必要な家族が増加することが推測される。このようなケースにおいて,生活そのものを成り立たせるための対策が急務である。
3.ひきこもり期間の推移
家族調査におけるひきこもり期間は,昨年度は、一昨年度よりも1年以上短いという結果が示されたが、今年度は昨年度から2年以上長いという結果であった。今年度の平均ひきこもり期間12.2年という結果は過去最長の期間であり,この傾向は家族調査だけでなく本人調査でも認められた。
4.家族会に期待していたこと,実際に得られたことの比較
家族調査において,初めて参加したときに家族会に求めていたこと(期待)と実際に得られたこと(実際)を比較した。「自分の経験談を話すことで、心を軽くしたい」,「精神的な支えを得たい」に関しては,当初の「期待」よりも「実際」の方が高いという結果が示された。したがって,家族が気持ちを軽くしたり精神的な支えを得たりする役割を家族会が期待以上に担うことができており,これらの役割を家族会が担うことによって家族会への継続的な参加につながると考えられる。
また,本人調査においては,「家族の気持ちを知りたい」,「自分の経験談を話すことで、心を軽くしたい」に関しては,当初の「期待」よりも「実際」の方が高いという結果が示された。したがって,家族の気持ちを知ったり自分の気持ちを軽くしたりする役割を家族会がご本人の当初の期待以上に担うことができており,これらの役割を家族会が担うことによって家族会への継続的な参加につながると考えられる。
5.40歳を超える高年齢化事例の特徴
本調査では,ご本人の年齢が40歳以上の場合と40歳未満の場合を比較することで,どのような特徴が認められるかを検討した。本人調査では,40歳未満の事例が37名,40歳以上の事例が13名(26.0%)でした。また,家族調査では,40歳未満の事例が204名,40歳以上の事例が93名(31.3%)でした。
(1)ひきこもり期間
本人調査,家族調査のいずれも,40歳以上の事例の方がひきこもり期間が長いという結果であった。
(2)本人の社会参加困難感
家族調査においては,40歳以上は40歳未満よりも社会参加困難感が低いことが示された。
6.行政調査
家族会の設置状況については、8.6%が設置しているに留まっている。自機関及び設置されている自治体内で家族会があることを把握していない機関に、今後家族会を設置する予定があるかについて尋ねたところ、設置を予定している行政機関の割合は16.7%となった。また、家族会の設置を予定していない理由としては、「必要性があるかわからない」という回答が57.6%を占めている。このことから、行政機関においても家族を支援する家族会の取り組みは鈍い状況がわかる。家族を支援することの重要性は、ひきこもり本人と家族、そして支援者も認めているところであるが、それを実践しているところはまだまだ少ない。家族の真の思いを知るためにも、行政機関において家族会をはじめとした家族支援に是非取り組んでもらいたい。
7.効果と今後の展開
本年度の調査では、長期、高年齢化がさらに進んでいることに加えて、当事者、家族の多くが行政機関との連携を求めていることが明らかにされた。また、行政機関も家族会の意義を認めている。しかし、行政機関での家族支援は十分には進んでいない現状も示された。その最たる理由が、ひきこもり支援のスキルがないという点であった。
2019 年3 月29 日に、内閣府が40 歳から64 歳まででひきこもり状態にある人が61.3万人であることを公表した。15 歳から39 歳までのひきこもり状態にある人54 万人を加えると、全世代で115万人のひきこもり当事者がいることになる。そして、その家族を含めると少なくとも300 万人の人たちがひきこもり問題を抱えている当事者となる。
今後は、全世代で生じているひきこもりに対応していく必要がある。ひきこもり問題では家族を含めた支援が必須であるため、当会が蓄積した支援スキルを広めていくことが効果的であると考えられる。
問合せ先
・ 特定非営利活動法人 KHJ全国ひきこもり家族会連合会
・ 〒170-0002 東京都豊島区巣鴨3-16-12-301
TEL:03-5944-5250
・ 宮崎大学教育学部 境 泉洋
〒889-2192 宮崎県宮崎市学園木花台西1-1
TEL:0985-58-7458
報告書A4版 全261ページ
ダウンロードはこちらから(25MB)
よくあるご質問
Q.推移のグラフで横軸の”本年度”と”昨年度”は何年ですか?
A.調査をした年ではなく、報告書の発行年です。”本年度”は2019年で、”昨年度”は2018年になります。
2018年度以前の結果はこちらをご覧ください。